今回のライブで初披露した新曲「あの冬に戻り、やり直せるならば」。ちょっと暗すぎるかな…と思っていたが、意外にも、思いの外好評でとても嬉しかった。
曲を作る時は色んなパターンがあるが、この曲は最初にタイトルありきで、このタイトルからイメージを膨らませてまずはメロディーを作った。なかなか納得がいかず、6パターン目でようやく自分の中でOKが出た。つまり1曲完成させるのに、メロディーだけで6曲分作ったということ。その後歌詞に取りかかり、比較的早めに出来たが、いつもの如く、時と共にどんどん手直しをしていった(ゆえに本番では、手直し前の歌詞がいきなり出てきて、混乱してしまう)。すんなり完成した曲ではないのだが、前作の「群青の翼」が超難産だったことを思うと、今回の曲は比較的あっさり出来たように感じてしまう。
不意に浮かんだタイトルなので、なぜ「冬」なのかを考える。普通なら「春」か「夏」に戻りたいはず。でもあえて「冬」。そこで浮かんできたのは冬のアイテム「炬燵」である。外は凍える程の寒さでも炬燵の中は温かく、寄り添い合う季節。その中で見ていた夢は、外の寒さを知らぬが故の甘い夢。肩寄せ合い、積み上げていっても、春になれば雪はあとかたもなく消えてしまうように、甘い夢も幻となっていく。どんなに外は寒くても、たとえ嵐でも、中は暖かった。寄り添い合っていた。でも今は何もない。過去を思う時につきまとうのは考えても仕方のない、でも不意に心を突き刺す後悔という嵐。
そんなイメージで曲を仕上げていった。僕の歌はいつもそうだが、一見、恋愛の歌に見えても、聴き手によっては、家族であったり、友人であったり、仲間かも知れない。誰の胸にもきっとあるであろう、そして必ず経験する別れと後悔。決して戻らない過去。一瞬の幸せな季節を「春」ではなく、一番厳しいからこそ幸せを感じられる濃密な「冬」に喩えて作った1曲。今回のライブでは、フルバンド編成で、ピアノとサックスをメインにお届けしたが、今後まだまだ成長していける1曲になったように思う。
あの冬に戻り、やり直せるならば
作詞・作曲:高橋 功
ひとりぼっち 取り残されて
どうして生きてゆくのだろう
思い出は 美しいほど
重い荷物になるばかり
こたつの中で 見ていた夢は
まるで 雪のような幻
あなたの顔が 浮かんで消える
寒さ知らずの 遠い冬
いつかは終わる 夢も嵐も
言葉ひとつを 飲み込んで
過ぎ去って 初めて気づく
愛は後悔を 置いて去く
あの時もしも だけどあの時
不意に突き刺す 苦い記憶
あの冬に戻り やり直せたら
他には何にも いらない
世界中すべて 敵になっても
ひとり味方に なっただろう
どんなに雪が 降り積もっても
春になったら 何もない
16年ぶりのニュー・アルバム『機微』
2023年3月1日より各音楽ダウンロード&ストリーミングサービスにて配信開始
胸に秘めた熱情、誰も知らない真実、待ち焦がれる想い、触れてみたい未来――
高橋功が紡ぐ、せつなさあふれる11通りの「心の機微」
《収録曲》
01. Blue Touch
02. 手をつないで
03. 夏景色
04. 群青の翼
05. 夜の窓
06. 碧い埠頭
07. 白昼夢
08. 知ってはいけないことがある
09. 塩水
10. 海からの手紙
11. 長い飛行船
全曲作詞・作曲:高橋功/編曲:荒武裕一朗