2016.05.15 Sunday
◆ 名前を呼んで
僕は生まれてこのかた、名字よりも下の名前で呼ばれることの方が多い環境にいた。今現在にしても、職場、ジム、ちょっと前まで通っていた英語学校など、日常的に下の名前で呼ばれる。名字で呼ばれるのは、店や公的施設くらい。関東では学校で級友を名字で呼び合うことが珍しくないようだが、僕の田舎では小学校も中学校も高校も全員が下の名前で呼ぶのが普通だったし(先輩後輩限らず)、大学でもやはり下の名前で呼ばれた。名字で呼ばれるようになったのは社会人になってからで、当時はそんなものかと思っていたので違和感もなかったが、ふと気が付くと、今再び名字で呼ばれる環境から遠ざかった為、最近は誰かに「高橋さん」と呼ばれると、あまりピンとこない。日本で3番目に多いポピュラーな名字ということもあるだろうけど。
殊更日本語では、名前の呼び方によって、相手とのおおよその関係性や親密度が測れてしまうので、ある意味、呼び方は重要かも知れない。そして、一度名字で呼び始めると、その後親しくなっても下の名前に切り替えるのが困難だったり、呼び方を改めるのは難しい局面もあるので、なかなか日本語の世界は手強い。だからなのか、僕は人にニックネームを付ける癖がある。
それなりに親しくしているのに、なぜか僕のことを名前で呼ばない友人もいるし(呼び方を固定するチャンスを逸してしまったのだろう)、出会った頃の環境ゆえにかなり親しくなっても「高橋さん」「高橋君」のまま、という人もいる。まぁ、呼び方についてはお好きにどうぞ、という話であるが、僕が一番嫌いなのは「すいません」という呼び方。もちろん見ず知らずの人は例外。仕事やら何やらで関わりのある人の場合、名前を呼ばない、あるいは名前を覚えようとせず「すいません」でお茶を濁そうとするのは大人としてどうかと思ってしまう。何度かそれが続くと、僕を呼んでいるんだろうなとは思いつつ、気づかないフリをしてしまうこともある。どっちが大人気ないんだろう?
そこで思い出すのが、高校時代、アメリカに1年間留学した際のこと。最初のホストファミリーとは上手く行かず1ヶ月ちょっとでホストチェンジしているのだが、意地悪なホストマザーが僕のことを一切名前で呼ばず「Excuse me(すみません)」と呼んでいた。日本語よりも遥かにファーストネームを呼んだり、言葉の前後に名前を入れること(Hi, Ko!とかThank you, Ko!など)の多い英語の世界で、これはあからさまなイジメである。
僕はそのホストファミリー宅に到着したその日、ホストファーザーとホストマザーに何と呼べばいいか確認をした。DadやMomと呼んでほしい人もいれば、ファーストネームで呼んでほしい人もいるから、初日に確認すべし、と留学前のオリエンテーションで教育を受けていたからだ。彼らの回答は「ファーストネームで」とのことだった。ところが10日程経った頃、「ミスター・ハナー」「ミセス・ハナー」と敬称付の名字で呼ぶように言われた。それまでに短期を含め何度かホームステイを経験済みだった僕は、これにはかなり面食らった。ホストファミリーという形式上でのファミリーとはいえ、家族として接する人に対し、敬称付の名字で改まった呼び方をすることには抵抗感しかなかった。日本語で言うなれば、自分の家族や親戚を「高橋様」と呼ぶような不自然さがある。その時、僕から「なぜファーストネームではなく、家族に対してそんな改まった呼び方をしなければいけないのか?」と確認すれば良かったのかも知れない。僕はホストファミリーを敬称付で呼ぶことにためらい、そして彼らは彼らで僕の名前を呼ばなかった。お互いが「Excuse me」と呼び合った。鶏が先か卵が先か、という問題になってしまうが、僕は僕で「ホストファミリーがそう呼ぶならこっちもExcuse meと呼ぶ」と意固地になった。
留学先における僕の担当者が間に入って話し合いが行われる数日前、僕とホストマザーは些細なことで口論になった(アメリカ留学記・第13話「喧嘩」に詳細あり)。ホストマザーが名前を呼ばないものだから、誰に対して発した言葉なのかが分からなかったことも起因しての行き違いだったこともあり、僕は感情的になり、「あなたはいつも僕の名前を呼ばない!(だから分からなかった!)」と声を荒げた。すると驚いたことにホストマザーは「私はあなたを“コウ”と呼んでるわ!」と言い放った。
「呼んでない!」と、僕。
「じゃああなたは私のことなんて呼んでる?いつも“Excuse me(すみません)”って呼んでるじゃないの!」
「You, too!!!(あなたこそ!)」
何か事が起きて喧嘩になった時、感情に任せて流れ出る言葉は、日常的に不満に思っていることなのだとその時思った。
僕が日本語圏外において名前の呼び方で腑に落ちなかったのはこの1件きりだったが、事程左様に、名前の呼び方というのは重要なのである。
殊更日本語では、名前の呼び方によって、相手とのおおよその関係性や親密度が測れてしまうので、ある意味、呼び方は重要かも知れない。そして、一度名字で呼び始めると、その後親しくなっても下の名前に切り替えるのが困難だったり、呼び方を改めるのは難しい局面もあるので、なかなか日本語の世界は手強い。だからなのか、僕は人にニックネームを付ける癖がある。
それなりに親しくしているのに、なぜか僕のことを名前で呼ばない友人もいるし(呼び方を固定するチャンスを逸してしまったのだろう)、出会った頃の環境ゆえにかなり親しくなっても「高橋さん」「高橋君」のまま、という人もいる。まぁ、呼び方についてはお好きにどうぞ、という話であるが、僕が一番嫌いなのは「すいません」という呼び方。もちろん見ず知らずの人は例外。仕事やら何やらで関わりのある人の場合、名前を呼ばない、あるいは名前を覚えようとせず「すいません」でお茶を濁そうとするのは大人としてどうかと思ってしまう。何度かそれが続くと、僕を呼んでいるんだろうなとは思いつつ、気づかないフリをしてしまうこともある。どっちが大人気ないんだろう?
そこで思い出すのが、高校時代、アメリカに1年間留学した際のこと。最初のホストファミリーとは上手く行かず1ヶ月ちょっとでホストチェンジしているのだが、意地悪なホストマザーが僕のことを一切名前で呼ばず「Excuse me(すみません)」と呼んでいた。日本語よりも遥かにファーストネームを呼んだり、言葉の前後に名前を入れること(Hi, Ko!とかThank you, Ko!など)の多い英語の世界で、これはあからさまなイジメである。
僕はそのホストファミリー宅に到着したその日、ホストファーザーとホストマザーに何と呼べばいいか確認をした。DadやMomと呼んでほしい人もいれば、ファーストネームで呼んでほしい人もいるから、初日に確認すべし、と留学前のオリエンテーションで教育を受けていたからだ。彼らの回答は「ファーストネームで」とのことだった。ところが10日程経った頃、「ミスター・ハナー」「ミセス・ハナー」と敬称付の名字で呼ぶように言われた。それまでに短期を含め何度かホームステイを経験済みだった僕は、これにはかなり面食らった。ホストファミリーという形式上でのファミリーとはいえ、家族として接する人に対し、敬称付の名字で改まった呼び方をすることには抵抗感しかなかった。日本語で言うなれば、自分の家族や親戚を「高橋様」と呼ぶような不自然さがある。その時、僕から「なぜファーストネームではなく、家族に対してそんな改まった呼び方をしなければいけないのか?」と確認すれば良かったのかも知れない。僕はホストファミリーを敬称付で呼ぶことにためらい、そして彼らは彼らで僕の名前を呼ばなかった。お互いが「Excuse me」と呼び合った。鶏が先か卵が先か、という問題になってしまうが、僕は僕で「ホストファミリーがそう呼ぶならこっちもExcuse meと呼ぶ」と意固地になった。
留学先における僕の担当者が間に入って話し合いが行われる数日前、僕とホストマザーは些細なことで口論になった(アメリカ留学記・第13話「喧嘩」に詳細あり)。ホストマザーが名前を呼ばないものだから、誰に対して発した言葉なのかが分からなかったことも起因しての行き違いだったこともあり、僕は感情的になり、「あなたはいつも僕の名前を呼ばない!(だから分からなかった!)」と声を荒げた。すると驚いたことにホストマザーは「私はあなたを“コウ”と呼んでるわ!」と言い放った。
「呼んでない!」と、僕。
「じゃああなたは私のことなんて呼んでる?いつも“Excuse me(すみません)”って呼んでるじゃないの!」
「You, too!!!(あなたこそ!)」
何か事が起きて喧嘩になった時、感情に任せて流れ出る言葉は、日常的に不満に思っていることなのだとその時思った。
僕が日本語圏外において名前の呼び方で腑に落ちなかったのはこの1件きりだったが、事程左様に、名前の呼び方というのは重要なのである。
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